「Inside Outside」第1回2010/02/15 07:06

稲森康利ジャズピアノ講座
「Inside Outside」第1回目を受講して

この講座が始まると聞き、行かねば! と即決でした。Jazzの大きな魅力の一つであるアドリブ、このアドリブをクールな音、フレーズで自由自在に奏でられる様になりたい、と誰もが願っている事と思います。そしてそのクールでスリリングなアドリブの手法の一つがこのInside Outsideによるものだと思っています。
先日、稲森先生の穏やかな語り口と解かりやすい解説で、第1回目が終わりました。内容は(1)Ⅱ-Ⅴ (2)Ⅱ-Ⅴを発展させた進行 (3)シークエンスのフレーズ で、スケールワイズなフレーズや、或いはスケールとコード・トーンのみとで構成されているフレーズにもJazzyなエッセンスを感じました。ポイントとして、「アドリブの近道は模倣」(私達は既にImprovisation Workshopでフレーズの模倣を学んで射ますが…)、「実践の後に理論がついてくる」という印象的な言葉に深く納得です。
初級者、上級者双方の役に立つというこの講座にとても期待しています。それと私は稲森先生のどの講座でもそうですが、先生の解説のプラスαの部分がいつも楽しみです。先生どうそ宜しくお願い致します。 
(文・山口万弥)


         (画面をクリックすると拡大できます。)
1991年1月ワシントンD.C.で開催されたIAJE国際ジャズ教育者協会大会にて。
向かって右から4人目が稲森康利先生。その向かって左隣がバンキー・グリーン氏。当時稲森先生は日本支部会長。グリーン氏はPresidentでした。


【音楽こぼれ話】 ビル・エバンス その12010/02/21 06:59

音楽の背景にある人物やストーリーを探っていく【音楽こぼれ話】。今回から連載でお届けします。


“The Universal mind of Bill Evans”[DVD]
 ビル・エバンスはモダンジャズのハーモニーを確立したピアニストでもありますが、教育者でもあり哲学者でもあるその横顔をこのDVDでは垣間見ることができます。たった45分の長さのドキュメンタリーですが、ジャズを目指す人たちにぜひ見ていただきたい内容です。
ビル・エバンスの兄、ハリー・エバンスはジャズ・ピアニストでもあり音楽教育者でもあります。彼とビルのインタビューに、実際のピアノ演奏も交えて、ビル・エバンスの考えるジャズを浮き彫りにした、教育ビデオと言っていいでしょう。

巻頭ではこのようなナレーションが入ります。
「普遍的な音楽の心”Universal mind”は、誰の中にもあると私は信じている。すべての音楽はこの心とともに人々に語りかける。たとえ音楽が人々に語りかけなくても、人々の理解する音楽のスタイルはそれぞれ違う。~中略~『音楽的判断よりもプロの判断を』・・・私はこの意見に反対だ。私はプロの判断よりも素人の判断を信じている。音楽家に囲まれて過ごすプロたちには、普通の人たちの持つ純粋さがないからだ。」

ビル・エバンスは6歳でクラシックピアノを習い始めます。熱心な彼は、上手に弾けるようになるまで、何度も何度も飽きることなく弾いていたそうです。13歳のころにはモーツァルトなども弾けるようになりますが、楽譜がなくては簡単な愛国歌でさえ弾けないことに疑問を持ちます。初めてのバンド演奏でも、最初は楽譜とおり弾いていました。あるとき、「タキシード・ジャンクション」を楽譜にない音も弾いてみました。その日から、音楽を作ることに興味を持ち、仕事を通してコードやハーモニーの知識を身につけていきました。

「ジャズはクラシックの手法を復活させた音楽でもある。17世にはクラシックでも即興演奏が行われていた。でも当時は音楽を残す手段がなかったんだ。つまり録音技術が存在しなかった。だから楽譜という形で残された。そして作曲家やミュージシャンは次第に音楽に正確さを求めるようになった。その結果、クラシックでは即興そのものが忘れ去られた。かつてクラシックに用いられた“プロセス”を復活されたのがジャズだ。ジャズを“スタイル”と考える人は多いが、私は音楽を作る"プロセス“だと思っている。1分間の音楽を、1分間かけて作る”プロセス“だ。」

「ジャズは即興性が問われる創造のプロセスであり、ただのスタイルではない。モーツアルトやバッハが即興でピアノを弾いていたとき、彼らはジャズを演奏していた。それが私のジャズに対する考えだ。」

※次回も”The Universal mind of Bill Evans”のその2をお送りします。

文章:池田みどり

【音楽こぼれ話】 ビル・エバンス その22010/02/28 06:55

多くの巨人と言われるジャズミュージシャンがそうであったように、ビル・エバンスも決して恵まれた環境ではなかったようです。
名盤で知られる“Sunday at the Village Vanguard”も客席がガラガラだった様子が、聞いていてもわかります。お皿を洗う音が響き渡っている。でもこの演奏は歴代の名演奏となっています。

ニューヨークの名門ジャズ・クラブ「ヴァンガード」ではミュージシャンを1週間単位でブッキングすることになっていました。ビル・エバンスも火曜日から日曜日で、最終日がレコーディングに当てられることになりました。しかし客の入りが悪く拍手もまばらなので、親戚や友人に連絡してきてもらったそうです。それでも拍手はそれほど多くありません。
(参考:「ジャズおもしろ雑学事典」小川隆夫著)

「ニューヨークに来てぶちあたった現実問題は、どうやって食っていくかということだった。そこで出した結論は、ピアノを弾き続けようということだった。あきらめずに弾き続ければ、必ず誰かが認めてくれる。ピアノだけに限らずそれが私の生き方なんだ。」

このDVDでは、彼の真摯なジャズに対する姿勢と熱意が感じられます。彼自身ジャズスクールで当時11人の生徒を受け持っていたそうですが、そのうち8人がコードを勉強することさえ、いやがったと語っています。彼の熱意は直接の生徒にはあまり伝わらなかったのかもしれません。ここでは次のように語っています。

「ジャズを弾く技術を身につけるためには、個々の技術を順に学ぶべきだ。それらの技術を集中して身につけ、無意識にできるようになるまで練習するべきだ。」

彼は13歳からプロとして活動するようになった後も、時間が許す限り週5日練習を続けました。

「私は自分に才能があるとは思っていない。しかしそれが私の強みだ。技術を磨くうちに分析力が自然と身についていった。おかげで問題に直面した時の対処法や、自分を表現するために何が必要か、どれだけ努力すべきかが、よくわかるようになった。つまり、苦労することには価値があるのさ。」

※次回は”デューク・エリントン”をお送りします。
文章:池田 みどり