[Cinema de Jazz]“慕情~Love is a many splendored thing”2012/01/02 16:02

 昔のラブ・ストーリーは、文句なしにロマンチックです。そのころ邦題で使われたのが漢字二文字。「哀愁」「離愁」「旅情」などです。映画「慕情」の舞台は香港。このエキゾチックなバックグラウンドがこの映画の重要な脇役です。

 ベルギー人と中国人の混血の女医ハン・スーイン(ペンネーム)の自伝を元に書かれた悲恋物語。本作では英国人と中国人の混血として描かれており、女優・ジェニファー・ジョーンズがエキゾチックな味を出しています。ハンの夫は中国国民党の将校でしたが、内戦で戦死します。彼女はイギリスの植民地であるこの香港で勤務医として働き、その悲しみから立ち直れないままでいました。あるパーティで米国の新聞記者マーク・エリオット(ウィリアム・ホールデン)に出会い、二人は恋に落ちます。マークにはシンガポールに妻がいました。夫婦間は冷めきっていながらも離婚に応じてくれない状態でした。ハンは不倫を悩みながらも、愛を貫こうと決心をします。そんな折、マークに朝鮮戦争取材の話が…後ろ髪を引かれながらも戦場に向かうマーク。ふたりは手紙で愛を確かめ合います。ある日、彼の戦死を知り、ふたりの想い出の丘にかけのぼるハン。彼女の絶望を救ったのは、彼の残した言葉でした。
1955年に公開され、当時を代表するふたりの俳優の共演ということでヒットしました。

 この映画でもう一つの名脇役がこの主題歌でした。1956年のアカデミー歌曲賞、および音楽賞を受賞しました。作曲はサミー・フェイン。彼は映画やブロードウェイを中心に活躍し、”That old feeling”、”Secret Love”、”April love”などをヒットさせています。この曲をプッチーニの歌劇「蝶々夫人」のアリア「ある晴れた日に」にインスピレーションを得て、作曲したそうです。作詞のポール・フランシシス・ウェブスターも“Black coffee”、“Invitation”、“I got it bad and that ain't good”などのスタンダード曲を世に送り出しています。ふたりのコンビは“Secret Love”でもアカデミー歌曲賞を受賞しています。

 映画「ひまわり」も戦争で引き裂かれる男女の愛を描いていましたが、悲しいラブ・ストーリーの甘い主題歌はヒットするようですね。


文:池田みどり

「ブルース・ブルース」第3回2012/01/16 16:00

稲森康利ジャズ講座
「ブルース・ブルース」第3回 2012.1.8

第3回目の今回は、Horace Silverの『Opus de Funk』で、ブルースにおいてのBlue Note ScaleとMinor Penta Tonic Scaleを使ったアドリブのやり方と、Hampton Hawesの『Hamp's Blues』で、コードチェンジの技法(基本のコード進行を即興的に変える方法)を学んだ。
また稲森先生がIAJE(国際ジャズ教育者協会)で体験された、子供へのジャズ教育法を知る事ができ中身の濃い内容だった。

文:川地千賀

[Cinema de Jazz]“ひまわり~Sunflower”2012/01/17 15:59

 前回の慕情と同じく、戦争によって引き裂かれた男女の愛を、切々とメロディに織り込んだ名曲、ひまわり。作曲はヘンリー・マンシーニ…映画音楽と言えばこの人はかかせません。「ムーン・リバー」「酒とバラの日々」については、以前にもご紹介しました。

 映画は1970年公開、監督はヴィットリオ・デ・シーカ。ネオレアリズムの代表傑作と言われる映画「自転車泥棒」は1948年の作品。その後、この映画の主演であるソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニと「ああ、結婚」「昨日・今日・明日」をヒットさせています。彼自身がもともと舞台俳優で、劇団を旗揚げ。映画俳優としてもスターの座を得て、「武器よさらば」などにも出演しています。

【あらすじ】
ジョバンナ(ソフィア・ローレン)とアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、恋に落ち、結婚します。しかしアントニオには徴兵が迫っていました。逃れようとしますが失敗し、前線に送り込まれてしまいます。生死をさまよった末、ロシアの娘に助けられます。ジョバンナのもとに夫の行方不明の通知が届いたのは、年月が経てからでした。戦友から話を聞き、ロシアにいることを突き止めたジョバンナは、彼を探すためロシアに旅立ちます。夫の写真を片手に、聞いて回るうちに、居所を知っているという女性に会います。助けてくれたロシア娘と子どもまでもうけて、幸せそうな家庭を築いていた夫。ひまわり畑で、喪失感にたたずむジョバンナ。ヘンリー・マンシーニの心を引きちぎるようなメロディが、映像とともに私たちの心に残ります。

 ヘンリー・マンシーニはイタリア系アメリカ人。フルート奏者の父親から英才教育を受け、ジュリアード音楽院で作曲を勉強しました。第二次世界大戦では空軍のマーチングバンドでも活躍しました。グレン・ミラー楽団で編曲家兼ピアニストとして舞台に立っていました。その後、ユニバーサル映画に入社。映画グレン・ミラー物語では、クレジットには載っていませんが、音楽も担当したようです。オードリー・ヘップバーンとのコンビで、「ムーン・リバー」「シャレード」などで注目され、次々とヒット作を世に送り出しました。

 印象的なひまわり畑ですが、ロシアでの撮影は困難だったため、スペインで撮影されたそうです。

文:池田みどり

Tea For Two (二人でお茶を)2012/01/19 15:45

一年で最も寒さの厳しい季節を迎えました。ピアノを弾く指先も凍えるようなこの時期、手の中のお茶の温かさやぬくもりにホッとする日も多いのではないでしょうか。今回はお茶をテーマにしたラブ・ソング、♪Tea For Two(邦題:「二人でお茶を」)を取り上げました。

<概略>あなたの膝の上にいる私を想像してみて。そして2人でお茶しましょう。他に誰もいないし誰にも知らせず、あなたと私、2人きりの週末。夜が明けたらあなたのためにシュガー・ケーキを焼くつもり。そしていつか子供が生まれるの。あなたと私に男の子と女の子。ああ、なんて幸せなんでしょう!

という夢のお話です。カップルのおのろけを聞かされているような、ちょっと気恥ずかしくなるような内容ですが、そもそもこの歌は、仮眠中だったアーヴィング・シーザーが作曲者のヴィンセント・ユーマンスに急かされて、眠い目をこすりながら書いたものだそうで、真剣に練り上げたとは言えないこの詞のシンプルさが逆にこの曲の魅力を引き立てているように感じます。

詞の中に幸せの代名詞として登場するtea(お茶;紅茶)は、ご存じのように中国が起源で、その呼び名は福建語のTAY(テ)に由来します(一方、日本の「茶」は広東語のCHA(チャ)から来ています)。世界各地に伝わっていった中国のお茶は、それぞれの国で呼び方を変化させ、飲み方やマナーについても少しずつかたちを変えて普及していきます。特にアフタヌーン・ティーで有名なイギリスでは、お茶が洗練された文化にまで高められましたが、王室や上流階級のみならず、18世紀前半には一般庶民の生活にも浸透しはじめて、その後イギリスの国民的な飲み物となりました。

早朝に飲むお茶、仕事や雑事の合間に飲むお茶、午後のひとときに飲むお茶、家族の団らんに飲むお茶、就寝前に飲むお茶等々、日ごろ頻繁にお茶を飲む習慣のあるイギリスでは、一杯の紅茶は単に飲料というだけでなく、生活の中にゆとりや癒し、落ち着きや充足感をもたらすなど精神的な要素も多く含んでいます。この歌詞に出てくる紅茶やシュガー・ケーキもまた、主人公の満ち足りた心や温かな家庭への憧れを象徴しているかのようです。

歌詞自体は韻が多く踏まれ、対句表現が言葉にリズム感を与えています。例えば、with tea for two and two for tea「2人でお茶を、お茶を2人で」や (a sugar cake) for you to take for all the boys to see「あなたが食べるための(シュガー・ケーキ)、他の人が見るための(シュガー・ケーキ)(直訳)」などですが、これら対句の多用によって2人きりの世界がより強調されているように思いました。

ジャズとお酒はよく似合いますが、寒い冬にお茶を飲みながら聴くジャズも私たちの心を満たしてくれることでしょう。

文:藤澤ゆかり