リュシーメソッド第2回公開講座 ― 2018/06/30 15:27
リュシーメソッドの第2回公開講座は6月26日(火)10時半から国立のAIスタジオで行われた。今回のテーマは「ルバート」。稲森訓敏先生からアッチェレランドとリタルダンドの法則を教えていただいた。これに関してはまだ出版されておらず、いただいた資料は、他では手にはいらない貴重なものだ。
リュシーメソッドの講座に初参加の方も多かったので、最初に基本となる3つのアクセント(メトリックアクセント、リズムアクセント、パセティックアクセント)と「リズム」について解説があった。リュシーメソッドでいうところの「リズム」とは「動いて止まる一塊の運動体」で、楽譜に書かれている音群からこの一塊を見つけていくのがフレージングということになる。中心となるアクセントを見つける方法、accel.すべきところと、rit.すべきところの音のかたちが譜例とともに示された。アシスタントのピアニストが適切に実演してくださり、とても分かりやすかった。
資料としてわたされた譜例には、モーツアルトやショパンなどと一緒にブルグミュラーの曲も入っていた。これはおなじみの子供用教材ではあるが、意外にフレージングがわかりにくい曲があり、かつて私はピアニストが演奏している模範演奏CDを買ってみたことがある。ところがやたらに速く弾いているだけで全く役に立たなかった。今回の資料には「シュタイヤ-のおどり(スティリアの女)」が含まれていたが、リュシーメソッドのaccel.とrit.の法則に基づくとみごとに魅力的な曲になった。楽譜に書かれたフレージングが必ずしも正しくはないこともわかった。
1時間半の講座のあと、2名の方が公開レッスンに臨んだ。最初の受講者はメンデルスゾーン「6つの子供の小品」第1曲を演奏した。まずピアノ奏法について、手首の使い方、タッチなどの指摘があった。訓敏先生は主に重力奏法に基づく指導をされている。ピアノ奏法が適切でなければ、出したい音も出せないから重要だ。これはポピュラーピアノやジャズピアノも同様で、稲森康利先生も腕や上半身の重さを使ったこの奏法で指導されていたのをなつかしく思い出した。
2番目の受講者は東京芸大ピアノ科博士課程に在学中の方で、ベートーベンの「悲愴」をぺータース版で演奏した。会場の受講者にはぺータース版とリュシー版と2種類の楽譜が配布された。ひと目でリュシー版は全く異なるのがわかる。2倍で記譜されている。つまり同じ4分の4拍子でも「ド~ドレ~♭ミ ♭ミ~ レ~」が、「ド~ドレ~♭ミ」と「♭ミ~レ~」とに小節線で区切られる。提示部になると、今度は2分の1で表記され、左手8分音符の連続が、16分音符の連続となる。リュシー版は音楽の構造がはっきり見え、ずっと読みやすいのがよくわかった。
このように、表現する上で楽譜の訂正が必要な場合がよくある。ポピュラーやジャズ曲も同様で、拍子記号が必ずしも正しくないことについては、イナモリ・メソッド会員に配布される会報の紙上講座で訓敏先生に解説していただいている。 文:茂木千加子
[Cinema de Jazz]"追憶~The Way We Were” ― 2012/12/21 16:42
1973年公開のシドニー・ポラック監督作品「追憶」は、ロバート・レッドフォードとの共演で話題を呼びました。政治にのめり込むケイティ(バーブラ・ストライザンド)と、政治には関心がなく映画脚本家になるハベル(ロバート・レッドフォード)との、正反対のふたりの恋愛物語。バーブラ・ストライザンドは実生活でも、熱心な民主党支持者として知られ、政治活動に関わってきました。ロバート・レッドフォードはご存じのとおり、1980年「普通の人々」を制作、その後、映画監督として活躍しています。
主題歌「追憶」はアラン&マリリン・バーグマン夫妻の詩に、マーヴィン・ハムリッシュが曲をつけています。マーヴィン・ハムリッシュはエミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞、ピュリツァー賞をすべて受賞しており、このマルチ受賞は、彼の他には、大物作曲家リチャード・ロジャースしかいません。ミュージカル「コーラスライン」の音楽を担当し、「スティング」「ファニーガール」「007私の愛したスパイ」「普通の人々」など多くのヒット曲を生み出しています。「追憶」は1974年に、アカデミー主題歌賞を受賞しました。バーブラ・ストライザンドの17枚目のシングルとしてリリースされ、ビルボード誌年間ランキング第1位になっています。これによって彼女は1955年以来2人目のビルボード誌年間ランキング第1位の女性ソロシンガーとなりました。
映画のあらすじ:大学で机を並べて勉強するケイティとハベルは、まるきり思想の違うふたりだった。第2次世界大戦中、海軍大尉となったハベルに偶然再会したケイティ。ふたりは恋に落ち結婚する。ケイティは政治活動を続けながらも、ハベルの脚本家としての創作活動を励ます。やがて彼は認められるようになり、映画化も決まった。そんな折、マッカーシズム…いわゆる赤狩り(共産主義狩り)が映画界にも大きな影を落とす。ケイティは反共産主義として政治活動にのめり込み、ハベルは創作の自信をなくしていく。妻の政治活動が、夫のハリウッドでの活動に影響を及ぼすことは必至だ。浮気の疑念も湧く中、心が遠ざかっていくハベルとの離婚を切り出すケイティ。離婚後、街中で偶然に再会するふたり。思い出される過去。追憶は記憶として胸にそっとしまわれる。
文:池田みどり
[Cinema de Jazz]“Moon River” ― 2012/12/05 16:48
試写会でパラマウント映画社長が、オードリーが歌うこのシーンをカットしたほうがよいと発言しました。そのとき、オードリーが立ちあがり、「絶対カットはさせません」と断固反対したと言います。
原作はトルーマン・カポーティの小説「Breakfast at Tiffany's」。トルーマンは主演をマリリン・モンローに据えることで映画化を了承しましたが、マリリンはセックスシンボルからイメージ脱却したいという理由から、出演を断り、オードリーにその役が回ってきました。原作でも歌うシーンは出てきますが、「ムーンリヴァー」のイメージではなく、またハッピーエンドでは原作の意図を踏みにじるものだと、トルーマンは激怒したと言います。
映画のストーリー:1950年代のニューヨークに住むホーリー・ゴライトリー(オードリー・ヘップバーン)は、ちょっと風変わりな女性。芸能界のドン、世界的な大富豪、果てはマフィアの顔役などを相手にする高級娼婦で、勝手気ままに生きています。時には自宅のアパートにあふれかえるほどの客を呼びパーティで大騒ぎ、時にはひとりで高級宝飾店ティファニーのウィンドウを見ながら朝食を取る…そんな扱いにくい女性に、恋をしたのが売れない小説家ポール・バージャック(ジョージ・ペパード)。同じアパートに引っ越してきたことをきっかけに、ふたりは友達つきあいをしますが、いつも彼女に振りまわされることばかり。けれど、どこかガラスのような繊細さを持つホーリーに、ポールはだんだんと惹かれて行きます。そのうち彼女の辛い過去が心の傷になっていることを知るポール。彼はホーリーを大きな愛で包み込む決心をし、それを受け入れたホーリー。ふたりは本当の愛を知ります。
この曲は1961年アカデミー歌曲賞を受賞。グラミー賞では最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀編曲賞の3部門を受賞しました。
作詞者ジョニー・マーサーの故郷、南部ジョージア州サバナにある「バック・リバー」という川に映り込んだ月の光と、主演のオードリー・ヘップバーンをイメージして作られたそうです。
文:池田みどり
Wave(A.C.Jobim) ― 2012/08/27 16:33
ジョビンが歌詞をつけて歌っているアレンジもありますが、私はギター1つでD majorで演奏されている音源を好んで聞いています。人の少ない、夕方の穏やかなビーチを思わせるような曲です。
曲の構成はイントロがあり、A B A の三部形式になっています。
イントロ【前奏】はDmとG7が繰り返され、クラシックの観点でこの進行はC majorのⅡ (2度)→V(5度)と同じように聞こえますが、テーマに入る直前、D majorの V7の5音、下方変位の役割になる、E♭7が入ります。(資料※①)
テーマ【A】の1小節目はD majorですが、2小節目からは、ジャズ理論でいうG majorのコードパターン③が使われています。(資料※②)
その後B majorのV(5度) → E majorのV(5度) → A majorのV(5度) → D major のV(5度)を経て、Dm に落ち着きます。今述べた B major→ E major→ A major→ D majorの調の関係を見ると、それぞれ下属調の関係にあり、終点にD majorを意識した進行です。
終点がDmでD majorの和音がコードが使われているのは1小節目だけと言ってもいいぐらいですが、調号はシャープ2つで、あくまでもD majorとして書かれているのはそのためです。
【B】はF majorのⅡ(2度) 始まり、後にE♭ majorのコードも使われ、♭系の曲調になります。【A】が♯系の調性が多かったので、【B】は柔らかい印象になり、また【A】に戻ります。
このように短い間に多くの調を経ていますが、非常になめらかに曲は進んでいます。今まで解説した曲は、斬新な転調が特徴的でしたが、Waveは転調というよりはたくさんの調からコードを借りてきていて、それでも自然にまとめられています。
穏やかな印象の曲なのに、分析してみると凝ったコード進行になっているのには驚きです。ジョビンの曲は「ジョビンの創作物」というよりは、曲そのものが「生き物」のように柔軟で繊細にフィットし、多くの人々に馴染んでいくのでしょう。
文:中田美月
September Song (セプテンバー・ソング) ― 2012/08/06 18:00

<概略>5月には12月までがとても長いように感じられるけれど、9月になると今年も残り僅か。無為にやり過ごす時間など残されてはいない。9月、11月と月日を追うごとに毎日が大切なものに思えてくる。この残り少ない貴重な日々を僕はあなたと共に過ごしたい。
クルト・ヴァイル作曲、マックスウェル・アンダーソン作詞、もとはブロードウェイ・ミュージカル「ニッカボッカ・ホリディ」の挿入歌でウォルター・ヒューストンが歌いましたが、後に映画「旅愁」のために再録音し大ヒットしました。1年を人の一生に重ねて、夏が終わり日が短くなる9月という季節を人生の節目に喩えています。人が「人生」を意識しはじめる5月。その頃はまだ一生は長いと思っていたけれど、気づけば9月。人生も残り3分の1。この残りの日々を大切な人と過ごしたいという内容の歌詞。シンプルでありながら主人公の感傷的な心情が豊かに表現されていて個人的には好きな歌です。
ところで、英語の月名の殆どはローマ神話の神々の名前や紀元前8世紀ごろに成立した古代ローマ暦に由来することをご存知でしょうか。September(9月)は「7番目の月」の意で、語源はラテン語のSeptem(「7」)ですが、これは古代ローマ暦では3月が1年の最初の月であったことに由来します。9月は3月から数えて7番目に当たります。その後、ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)がユリウス暦を制定し、1月を1年の最初の月とし、また誕生月である7月(古代ローマ暦では「5番目の月」)に自分の名前を採用してJulyとしました。同様に8月(August)は初代ローマ皇帝アウグストゥスの誕生月で、養父のカエサルに倣って自分の名前をつけたと言われています。ちなみに、October(10月)は古代ローマ暦では「8番目の月」ですが、これはラテン語のocto(「8」)が語源です。8度の音程を意味するオクターブ(octave)や8本の足を持つタコ(octopus)もここから来ています。
余談ですが、日本語では四季のことを春夏秋冬と言いますが、英語では語順が異なりwinter, spring, summer and fall(冬春夏秋)と言います。思えば、夏も秋も1年の後半にあたり2012年も3分の2が過ぎ去ろうとしています。月日の経過の速さに戸惑いつつ、二度と戻らない貴重な日々を大切に過ごしたいと思いました。残暑厳しい折、どうぞご自愛くださいませ。
文:藤澤ゆかり