【音楽こぼれ話】 ビル・エバンス その12010/02/21 06:59

音楽の背景にある人物やストーリーを探っていく【音楽こぼれ話】。今回から連載でお届けします。


“The Universal mind of Bill Evans”[DVD]
 ビル・エバンスはモダンジャズのハーモニーを確立したピアニストでもありますが、教育者でもあり哲学者でもあるその横顔をこのDVDでは垣間見ることができます。たった45分の長さのドキュメンタリーですが、ジャズを目指す人たちにぜひ見ていただきたい内容です。
ビル・エバンスの兄、ハリー・エバンスはジャズ・ピアニストでもあり音楽教育者でもあります。彼とビルのインタビューに、実際のピアノ演奏も交えて、ビル・エバンスの考えるジャズを浮き彫りにした、教育ビデオと言っていいでしょう。

巻頭ではこのようなナレーションが入ります。
「普遍的な音楽の心”Universal mind”は、誰の中にもあると私は信じている。すべての音楽はこの心とともに人々に語りかける。たとえ音楽が人々に語りかけなくても、人々の理解する音楽のスタイルはそれぞれ違う。~中略~『音楽的判断よりもプロの判断を』・・・私はこの意見に反対だ。私はプロの判断よりも素人の判断を信じている。音楽家に囲まれて過ごすプロたちには、普通の人たちの持つ純粋さがないからだ。」

ビル・エバンスは6歳でクラシックピアノを習い始めます。熱心な彼は、上手に弾けるようになるまで、何度も何度も飽きることなく弾いていたそうです。13歳のころにはモーツァルトなども弾けるようになりますが、楽譜がなくては簡単な愛国歌でさえ弾けないことに疑問を持ちます。初めてのバンド演奏でも、最初は楽譜とおり弾いていました。あるとき、「タキシード・ジャンクション」を楽譜にない音も弾いてみました。その日から、音楽を作ることに興味を持ち、仕事を通してコードやハーモニーの知識を身につけていきました。

「ジャズはクラシックの手法を復活させた音楽でもある。17世にはクラシックでも即興演奏が行われていた。でも当時は音楽を残す手段がなかったんだ。つまり録音技術が存在しなかった。だから楽譜という形で残された。そして作曲家やミュージシャンは次第に音楽に正確さを求めるようになった。その結果、クラシックでは即興そのものが忘れ去られた。かつてクラシックに用いられた“プロセス”を復活されたのがジャズだ。ジャズを“スタイル”と考える人は多いが、私は音楽を作る"プロセス“だと思っている。1分間の音楽を、1分間かけて作る”プロセス“だ。」

「ジャズは即興性が問われる創造のプロセスであり、ただのスタイルではない。モーツアルトやバッハが即興でピアノを弾いていたとき、彼らはジャズを演奏していた。それが私のジャズに対する考えだ。」

※次回も”The Universal mind of Bill Evans”のその2をお送りします。

文章:池田みどり

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