榎本玲子 My Favorite Songs 20162016/12/10 16:33

毎年クリスマスシーズンに行われる榎本玲子リサイタル(メゾソプラノ)が、今年も12月3日に行われた。このリサイタルは私が知る限り、もう25年以上にわたりほとんど休むことなく開催されている。1部はクラシック、2部はジャズという構成で、稲森康利先生は毎年、ベースの藍澤栄治さんと一緒にジャズピアノを演奏されてきたが、一昨年(2014年)が最後のご出演となった。今年の会場「カーサミア」は、成城のお屋敷の一部を開放した50席ほどの小さなホールで、スタインウェイがあり音響にも配慮されている。
1部は榎本さんによるカルメンのセギディリャ、カヴァレリア・ルスティカーナのアヴェ・マリアなど(ピアノ伴奏:服部容子)のほか、バイオリンやオーボエ(三原隆正)の演奏もあった。甲斐史子(Vi)さんは「チャルダシュ」演奏された。甲斐さんの「チャルダシュ」が稲森先生はお気に入りだったという。
2部では榎本さんが稲森先生がお好きだった「You’ll Never Walk Alone」や稲森先生が作曲された「Beau Soir」(作詞:佐野万里子)を歌われた。今年は青木弘武さんがピアノを担当された。そしてベースの藍澤栄治さんが「Farewell」をベースソロで演奏された。この稲森先生の作品は、かつて何かのリハーサル時に初めて演奏し、藍澤さんはとても気に入って、そのとき手渡されたリードシートを保管されていたという。まさしく題名のようにお別れとなってしまった。稲森先生を悼む心のこもったベース音がずっと耳に残った。
榎本さんはクリスチャンなので来場者は教会の方たちも多く、皆さんで一緒にクリスマスソングを歌うコーナーもあった。暖かで上品なコンサートだった。晩年、このような雰囲気の中で演奏できて稲森先生はお幸せだったことと思う。(茂木)


吉開社長を悼む2016/12/30 17:42

12月15日、中央アート出版社の吉開狭手臣社長が亡くなりました。
文化的な貢献こそ出版の使命であるという強い信念を持った方でした。
その信念を持って稲森康利先生の著書をたくさん世に出してくださいました。稲森先生と吉開社長の出会いがあってこそ、我々はイナモリ・メソッドによる上質な情報を豊富に得ることができるようになったのです。
中央アート出版社が最初に出版した稲森先生の著作は「ポピュラー・ピアノ・スタディVol.1」(1982年1月)です。実はこの原稿は稲森先生が他の出版社から「ポピュラーピアノ教本を書いてほしい」という依頼を受けて執筆したものでした。40代半ばだった稲森先生は、そのころの日本にはなかった充実した内容のポピュラーピアノ教本にしようと熱意をもって執筆し、原稿の山を出版社に持ち込んだところ、担当編集者は「いやいや、こんなに厚い本ははいらないのです」といい、親指と人差し指の間をほんの少し開いて「こんなものでいいんです」といって出版を断ったそうです。そこで稲森先生は中央アートにこの原稿を持ち込みました。すると吉開社長は即座に「うちはこういうしっかりした本がほしかったのです」と言い、この山のような原稿は「ポピュラー・ピアノ・スタディVol.1」「ポピュラー・ピアノ・スタディVol.2」となりました。
それから30年、稲森康利先生の著作は多い時には年に4~5冊出た時期もあり、120冊に及ぶ著作が生まれました。ジャズ、ポピュラー音楽を学ぶ人たちが受けた恩恵は計り知れないものがあります。
吉開社長のご冥福をお祈りするとともに、そのご努力の成果が実りある形で引き継がれていくように、会員の皆様とともに力を尽くしていきたいと思います。
(茂木千加子)