Tenderly (「優しく」)2011/08/17 12:23

お盆を過ぎ日中の暑さはまだ厳しいものの、日が落ちると熱気も和らぎ、そよぐ風が心地よく感じられる夏の夕暮れ。今回は、夏も終わりに近づいたこの時期に、涼しい夜風に吹かれながら聴きたくなる‘Tenderly’(邦題「優しく」)を取り上げました。

<概略>夕暮れ時。風に揺れる木立の中をあてもなく歩いていると、いつしか2人は道に迷い霧が立ちこめる海岸に出る。心細さに不安になる「私」を「あなた」は優しく抱きとめた。。

美しい曲調の‘Tenderly’ですが、歌詞についても詞の主題や雰囲気を強調するような様々な技法や表現が用いられ、視覚的、聴覚的に美しい歌になっています。例えば、evening breeze (夜風)やtrees(木々)等の擬人化やtenderlyの反復によって「優しさ」や「愛情」が繰り返し描写され、また各行の末尾では同音の韻(tenderly, breathlessly)が連続的に踏まれ(=脚韻)、行の途中でもbreeze(そよ風)とtrees(木々)、kissed(口づけされて)とmist(霧)等のように規則的に韻を踏むことで、歌詞にリズムが与えられて心地よい統一感を醸し出しています。さらに、各語のゆったりとした響きが語の意味や主題と結びついて、詞全体がやわらかく優しい雰囲気になっているように感じます。他にも、breeze(そよ風)とtrees(木々)、you(あなた)とI(私)、shore(岸辺)とsea(海)というように2つのものを対照させ、その2つの出会いを描写することで、「2人」が優しく寄り添う様子が強調されているようにも思います。

英語で「優しい」を表す言葉はいくつか思い浮かびますが、tenderはラテン語のtenerem(「やわらかい/弱い/繊細な」)が語源です。夕闇が迫る中、道に迷って霧の立ちこめる海岸へ辿り着いた時の心細さをそっと包み込むような、そんな愛情のこもった「優しさ」がtenderなのでしょう。

文:藤澤ゆかり

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