[Cinema de Jazz]“Moon River”2012/12/05 16:48

“Cinema de Jazz”、第2回目は、前回の「酒のバラの日々」と同じく作曲家ヘンリー・マンシーニ、作詞家ジョニー・マーサーのコンビによるヒット曲、「ムーンリヴァー」を取り上げます。監督も同じくブレイク・エドワーズで、「酒のバラの日々」を発表した前年、1961年の映画“ティファニーで朝食を”の主題歌です。主演はもちろん、おなじみのオードリー・ヘップバーンです。彼女がベランダでポロンポロンとギターを弾きながら、歌う「ムーンリヴァー」は、なんだか心にキュンと来るシーンでした。

 試写会でパラマウント映画社長が、オードリーが歌うこのシーンをカットしたほうがよいと発言しました。そのとき、オードリーが立ちあがり、「絶対カットはさせません」と断固反対したと言います。

 原作はトルーマン・カポーティの小説「Breakfast at Tiffany's」。トルーマンは主演をマリリン・モンローに据えることで映画化を了承しましたが、マリリンはセックスシンボルからイメージ脱却したいという理由から、出演を断り、オードリーにその役が回ってきました。原作でも歌うシーンは出てきますが、「ムーンリヴァー」のイメージではなく、またハッピーエンドでは原作の意図を踏みにじるものだと、トルーマンは激怒したと言います。

 映画のストーリー:1950年代のニューヨークに住むホーリー・ゴライトリー(オードリー・ヘップバーン)は、ちょっと風変わりな女性。芸能界のドン、世界的な大富豪、果てはマフィアの顔役などを相手にする高級娼婦で、勝手気ままに生きています。時には自宅のアパートにあふれかえるほどの客を呼びパーティで大騒ぎ、時にはひとりで高級宝飾店ティファニーのウィンドウを見ながら朝食を取る…そんな扱いにくい女性に、恋をしたのが売れない小説家ポール・バージャック(ジョージ・ペパード)。同じアパートに引っ越してきたことをきっかけに、ふたりは友達つきあいをしますが、いつも彼女に振りまわされることばかり。けれど、どこかガラスのような繊細さを持つホーリーに、ポールはだんだんと惹かれて行きます。そのうち彼女の辛い過去が心の傷になっていることを知るポール。彼はホーリーを大きな愛で包み込む決心をし、それを受け入れたホーリー。ふたりは本当の愛を知ります。

 この曲は1961年アカデミー歌曲賞を受賞。グラミー賞では最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀編曲賞の3部門を受賞しました。

作詞者ジョニー・マーサーの故郷、南部ジョージア州サバナにある「バック・リバー」という川に映り込んだ月の光と、主演のオードリー・ヘップバーンをイメージして作られたそうです。

文:池田みどり

稲森康利ジャズ講座『ザ・ジャズ・コード』第8回2012/12/11 15:06

稲森康利ジャズ講座『ザ・ジャズ・コード』第8回  2012.12.9

12月9日の寒い日に稲森セミナーがありました。今回は稲森康利著「ザ・ジャズコード」P.113~121の「モーダル・ハーモニー(旋法和声)でした。10頁に満たないこの項目には、モーダル・ハーモニーの概念の具体的な説明と、モーダル・ハーモニーの機能が書かれています。冒頭に「モーダル・ハーモニーとは、機能和声に対立する概念で、モーダル(旋法、スケール)を基にして行われる和声法である」と書かれていて、●機能和声とモーダル・ハーモニーの対比、●モーダル・ハーモニーの機能、●モーダル・ハーモニーの実際、と続きます。
私が、今までにモード曲を扱う時に、困った点が2つありました。ひとつは、モーダル・ハーモニーの概念がわからないため、機能和声のコードを使うという発想から離れられず、その混乱がずっと続いていた事です。もうひとつは、書店で買い求めるコピー譜の解説や理論書では、系統的な理論、技術、発展性がわからず、理解不能の感想しか持てなかった点です。世の中には、ジャズの巨匠たちの作品があるにもかかわらず、近付く事ができなかったのです。具体的には、マイルス・デイビス、ビル・エバンス、チック・コリア、ハービー・ハンコック、ジョン・コルトレーン、ウエイン・ショーター等のモードに基ずくと思われる作品に対して、ずっと苦手意識を持っていたのですが、今ではすっ かり消え、どんどん挑戦したいと思うようになりました。
稲森康利著「プレイ・ザ・ジャズピアノvol.1 」P.62~75、「ジャズフレーズ」モード、ダイアトニック・フレーズ、ホールトーンスケールフレーズ、クロマチックフレーズ、4度音程フレーズ、ペンタトニックフレーズ、そして「ザ・ジャズコード」の4度構成和音も大変参考になり、今回のセミナーの知識とあわせて、これらの、稲森メソッドのノウハウをたくさん身につけ、ジャズの巨匠の足跡を訪ねてみたいと思っています。次回のセミナーが楽しみです。

文:石崎敏行 (ライブハウスEllington経営。教室も開いている。)


講座テキスト:『The Jazz Chords』ザ・ジャズコード

稲森康利ジャズ講座

「ブルース・ブルース」 第2回2012/12/20 16:43

稲森康利ジャズ講座
ブルース・ブルース 第2回   2011.12.8

今回のブルース講座では、型とコード進行のバリエーション、さらにレッド・ ガーランドの『Hey Now』のアドリブ分析を行いました。

アドリブフレーズがどのスケールから作られているか(主にブルーノート・スケール、マイナー・ペンタトニック・スケール)。また、クロマティック・アプローチやディレイド・リゾルブで装飾されたフレーズの説明がありました。
Ⅴ7のコードの箇所はⅡm7-Ⅴ7に分割して考えると分析しやすくなるという裏技も教えてもらう事ができました。

レッド・ガーランドはマイルス・デイビスのバンドでプレイしていたこともあり、稲森先生もよくお聴きになったそうです。

次回はホレス・シルバーの『Opus de Funk』です。

文:川地千賀


講座テキスト: ブルースブルースvol.1

[Cinema de Jazz]"追憶~The Way We Were”2012/12/21 16:42

 バーブラ・ストライザンドの熱唱で有名な「追憶」。彼女は女優としてあるいは監督としてのみならず、脚本家・作曲家などとしても活躍し続けています。米国でもっとも成功した女性エンターテイナーとしての地位は、追随を許しません。

 1973年公開のシドニー・ポラック監督作品「追憶」は、ロバート・レッドフォードとの共演で話題を呼びました。政治にのめり込むケイティ(バーブラ・ストライザンド)と、政治には関心がなく映画脚本家になるハベル(ロバート・レッドフォード)との、正反対のふたりの恋愛物語。バーブラ・ストライザンドは実生活でも、熱心な民主党支持者として知られ、政治活動に関わってきました。ロバート・レッドフォードはご存じのとおり、1980年「普通の人々」を制作、その後、映画監督として活躍しています。

 主題歌「追憶」はアラン&マリリン・バーグマン夫妻の詩に、マーヴィン・ハムリッシュが曲をつけています。マーヴィン・ハムリッシュはエミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞、ピュリツァー賞をすべて受賞しており、このマルチ受賞は、彼の他には、大物作曲家リチャード・ロジャースしかいません。ミュージカル「コーラスライン」の音楽を担当し、「スティング」「ファニーガール」「007私の愛したスパイ」「普通の人々」など多くのヒット曲を生み出しています。「追憶」は1974年に、アカデミー主題歌賞を受賞しました。バーブラ・ストライザンドの17枚目のシングルとしてリリースされ、ビルボード誌年間ランキング第1位になっています。これによって彼女は1955年以来2人目のビルボード誌年間ランキング第1位の女性ソロシンガーとなりました。

 映画のあらすじ:大学で机を並べて勉強するケイティとハベルは、まるきり思想の違うふたりだった。第2次世界大戦中、海軍大尉となったハベルに偶然再会したケイティ。ふたりは恋に落ち結婚する。ケイティは政治活動を続けながらも、ハベルの脚本家としての創作活動を励ます。やがて彼は認められるようになり、映画化も決まった。そんな折、マッカーシズム…いわゆる赤狩り(共産主義狩り)が映画界にも大きな影を落とす。ケイティは反共産主義として政治活動にのめり込み、ハベルは創作の自信をなくしていく。妻の政治活動が、夫のハリウッドでの活動に影響を及ぼすことは必至だ。浮気の疑念も湧く中、心が遠ざかっていくハベルとの離婚を切り出すケイティ。離婚後、街中で偶然に再会するふたり。思い出される過去。追憶は記憶として胸にそっとしまわれる。

文:池田みどり