リュシーメソッド「音楽のリズム」を受講して2013/07/10 22:00

6月28日(金)、稲森訓敏先生によるリュシーメソッドの講座「音楽のリズム」が銀座ヤマハのサロンで行われたので受講しました。50席ほどの会場はほぼ満席。2時間ほどの講座は、お弟子さんのピアノ実演をまじえながらすすみました。
因みに稲森訓敏先生は、われらが稲森康利先生の甥ごさんです。

「音楽のリズム」マティス・リュシー著 稲森訓敏監修
(中央アート出版社)¥2100(税込)

前半はリュシーが音楽表現の研究を始めた動機や、先生がリュシーの著作を研究するようになったいきさつを話され、後半は簡単な曲を取り上げて実際にこのメソッドでどのように分析するかを説明されました。
楽譜上には音の高さ、長さ、強さ、テンポ、何拍子かなどの情報があります。しかし、それらを正確にピアノで演奏したとしても、音楽的な演奏とはいえないのは明白です。ではどうしたら表現すべき「音」を見つけることができるのだろうか。たとえ和声や形式を学んでも解くことができないこの問題に、今から130年前に取り組んだのがマティス・リュシーです。その成果を「音楽表現概論」「音楽のリズム」などの本にまとめました。コルトーとダルクローズ(リュシーの理論に基づきリトミックを開発した)は直接リュシーから習い、ラフマニノフとホロビッツは学校の授業で、カザルス、ティボー、シュナーベル、ブゾーニは独学で、リスト、ルビンシュタイン、ハンス・フォン・ビューローは友人としてリュシーの理論を学び自分の演奏に応用しました。それほど重要な著作でありながら、日本では30年前、当時大学院生だった稲森訓敏先生が国立音楽大学の図書館で原書を発掘するまで埋もれたままだったのです。
                                                          ※クリックすると拡大します。
和声や形式は音楽大学でも教えられていますが、音楽表現に関しては個人個人が感覚的にとらえたものを教授されることはあっても、理論的で系統的な指導はなされてきませんでした。したがって、用語も聞きなれないものや、通常使われる意味合いとは別な意味合いを持っているものがあり、リュシーメソッドで楽曲を分析するためには、まずはこれらに慣れ親しむことが必要でしょう。特に講座のタイトルにも使われている「リズム」という言葉は、通常、ボサノバのリズム、ワルツのリズム、ジャズのリズムなどのように使われますが、リュシーメソッドでは「動いて止まる1塊の立体的運動体」といった意味で使われます。リュシーメソッドによれば、的確にフレージングした上で、このひとかたまりの音の中で中心となる音やアクセントを持つ音を理論的に見つけていくことができるのです。

もちろんリュシーメソッドは、クラシック音楽の音楽表現に関するものです。しかし考えてみれば我々が取り組んでいるジャズやポピュラー音楽は、インド音楽でもアラビア音楽でもなく、まさしく西洋音楽の大きな流れの中にある音楽です。ポピュラースタイルの演奏にはリュシーメソッドを大いに活用できそうです。また、ジャズもクラシック音楽とは全く違う点を持ちながらも、明らかにたくさんの共通点を持っています。もしジャズについても音楽表現の構造が解明されたらすばらしいことです。リュシーメソッドはジャズの音楽表現研究にも大きなヒントとなりそうです。

文:茂木千加子

リュシーメソッドホームページ
http://homepage3.nifty.com/lussy-method/


コメント

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://inamorimethod.asablo.jp/blog/2013/07/10/7246505/tb